Interview

小松 千恵

デジタルモデリングのプロフェッショナルとして、“0.01ミリ”のトライ&エラーを重ねていく

小松 千恵(ダイハツ工業株式会社)

今、カーモデラーとして活躍している人は、どのような道をたどり、どんなキャリアを積んできたのでしょうか? 実際に自動車メーカーで働くカーモデラーに話を聞きました。

今回お話を聞いたのは、デジタルモデラーとして自動車のインテリア部品などを手掛けている小松千恵さん(ダイハツ工業株式会社)。自動車業界に入りたかったわけではなく、「CADの仕事がしたかった」という小松さん。彼女のこれまでのキャリアと、仕事観について語ってもらいました。

Profileプロフィール

小松 千恵(こまつ・ちえ)

ダイハツ工業株式会社 くるま開発本部 デザイン部 モデルクリエイト室

デザイン系の専門学校である大阪市立デザイン教育研究所で学び、卒業後、大手自動車メーカーの子会社に入社し5年ほど勤務。その後、複数の企業(別業界・別職種)にて働いた後、2017年にダイハツ工業株式会社に中途入社。デジタルモデラーとして、インテリア部品を中心とした製品化データ作成の業務に従事している。

小松 千恵

複数の仕事を経験した結果、改めて選んだ「モデリング」の仕事

小松さんは中途入社でダイハツ工業に入社されていますが、もともと自動車やモビリティ領域に関心があったのですか?

小松

いえ、実は私、車そのものにはあまり興味がないんです(笑)。職業柄、周りには自動車愛好家の方が多いのですが、私にとってはあくまでも移動手段でしかないんですよね。感覚としては、限りなく一般消費者に近いと思います。

興味があったのは自動車ではなく、CADを使った3Dモデリングの仕事の方でした。

これまでのご経歴について、簡単に教えてください。

小松

デザイン関連の専門学校で学んだ後、新卒でダイハツ工業とは違う自動車メーカーの子会社に入社しました。その会社では、4年ほど意匠図面のCAD業務に従事していました。

以降、複数の会社でまったく別ジャンルの仕事をしていたのですが、いろいろ経験した結果、モデリングの仕事が一番自分に合っていると思ったんです。

そこで派遣なども含めた転職活動をしていたタイミングで、たまたまダイハツ工業で中途採用の求人が出ており、2017年に正社員として入社することになりました。

CADを使ったモデリングの、どんなところに惹かれたのでしょう?

小松

私は専門学校でデザインを学ぶ選択をしましたが、自分で絵を描くことがそこまで得意ではなかったんです。それよりもCADで試行錯誤しながら立体のデータを作成する作業の方が、すんなり受け入れられて楽しく取り組めることに気がつきました。

「どうしたら、3Dデータで再現できるんだろう?」と考える工程が、自分で絵をきれいに描くよりも自分に向いてるなと思いました。

小松 千恵

0.01ミリ単位の調整を積み重ね、製品化データを仕上げていく。(画像提供:ダイハツ)

0.01ミリ単位の調整を何十回も繰り返し、得られる達成感

現在は、主にどのような仕事を担当していますか?

小松

自動車の内装、インテリア部品のCADデータ作成を担当しています。自動車の場合、デザイナーだけではなく、クレイモデラーや別の部品を担当するデジタルモデラー、マテリアルの担当者など関係者が非常に多岐にわたります。そのため自分自身の細かい作業に集中しつつ、周囲の人たちとも適宜対話を行い、調整しながら仕事に取り組んでいます。

デジタルモデリングの仕事のやりがいを感じるのは、どんなときですか?

小松

私たちデジタルモデラーが作っているのは、できあがったデザインを実際に製造、製品化するために必要な最終データです。ですから、デザインをただ形にすればいいわけではありません。

関連する法規の遵守、他部品との干渉、組付けの要件など、ありとあらゆる条件や制約がある中で、大元の意匠を損なうことないように、0.1ミリ~0.01ミリ単位の微調整を繰り返していきます。

すべての調整を完了してデータを仕上げ、「元のデザイン通りだね」と言われた瞬間、ようやく「良し!」と思えます。私は、そのときの達成感が好きなのかもしれません。

裏を返すと、それが仕事のやりがいでもあり、苦しさでもあるように思いますが、いかがでしょうか。

小松

そうですね。他部門や関係各所と連携しながら微細な調整を10回、20回と繰り返していくのは非常に根気が必要な作業で、ときには心が折れそうになることもあります。

デザインに込められた意図と技術的な制約、双方のバランスを取る必要があるので、関係者と綿密なコミュニケーションを重ねながら、柔軟な姿勢で取り組むことが求められる仕事だと感じます。

「車に興味がない」のに、今もカーモデリングの仕事を続ける理由

この仕事が「向いている人」は、どんなタイプの人だと思いますか?

小松

「ここをこうすれば、もしかしたらいけるんじゃないか?」と、常に試行錯誤を繰り返して工夫ができる人。複雑なパズルを解くようなものなので、その過程を楽しめる人が向いているのではないでしょうか。

小松 千恵

デジタルモデラーとして、設計と造形の狭間で思考を巡らせる小松さん。(画像提供:ダイハツ)

小松 千恵

「きく・きかれる」関係性を大切にし、デザイナーや上司と対話を重ねながら、最適解を探る。(画像提供:ダイハツ)

これからカーモデラーを志す学生のみなさんに、アドバイスをするとしたらどんなことを伝えますか?

小松

モデリングに使用するシステムやツールの使い方を広く浅く習得するよりも、車でもそれ以外でもなんでもいいので、一つの製品に対する知識を深める意識で取り組む方が良いのではないかと思います。ソフトウェアは、おそらくこれからもどんどん新しいものが出てきますから。

製品に対する知識を深めていくと、どのようなことができるようになるのでしょうか?

小松

社内の先輩方の仕事をそばで見ていると、自動車というプロダクトに関する引き出しの多さに驚くことがあります。「こういう制約があるときは、こう調整すればいい」「この調整をする際には、こんなコツがある」など、わずかな情報を聞いただけで対応策がパッと出てくるんです。

本当にすごい人は一つの部品を見た瞬間に、全体像がある程度“見えて”いるのだと思います。

みなさん、経験に裏打ちされた豊富な知識をもとに仕事に取り組んでおられます。それこそが、プロフェッショナルとしての在り方なのだと感じています。

画面上でコンマ数ミリのデータを処理しているとどうしても忘れがちになってしまうのですが、私たちは部品をつくっているのではなく、車をつくっているんですよね。私自身、まだまだ勉強中ですので、目の前のデータに与えられるマテリアルの情報や周辺の機構などを意識して、プロダクトへの理解をさらに深めていきたいと思っています。

冒頭で「車自体にあまり興味がない」という話がありましたが、そんな小松さんが、ダイハツ工業で自動車部品のデジタルモデリングを今も続けている理由を教えてください。

小松

自動車は、非常に多くの人が関わることで成り立っているプロダクトの一つです。大勢の人とものづくりができることは、とても貴重だと思います。

また自動車業界全体の特色として、利用者のニーズに応える製品をつくることだけではなく、モビリティ領域の未来を描いてそれを実現していくような、メーカーが主体となったものづくりの姿勢が強いと感じています。

そのため、開発関係者の「こうしたい」という意志を反映できる範囲が広く、そうした環境自体が魅力の一つだと思っています。

仕事で使用している「愛用品」見せてください!

ミニサイズの定規。モデリングを行う際、画面上では数百倍の大きさに表示して作業をすることが多い小松さん。そのためサイズ感が、麻痺しがちなのだとか。作業中にふと、「0.5ミリって実際のサイズは…?」と、この定規を見て、リアルな世界のサイズ(実寸)を確認するそう。

小松 千恵

お守りのように大切にしている、手のひらサイズのステンレス直定規。(画像提供:本人)